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自己啓発

【第2回】 正直な人は信頼される

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photo by Ryan McGuire
2018.7.11
From 高田明和

「オキシトシン」と「信頼」の関係

最近、信頼は脳のどのような仕組みにより引き起こされるかという研究が盛んになされています。動物の研究によると、動物間に信頼が生まれる時、脳内のオキシトシンというホルモンが増えているということが分かりました。

オキシトシンという物質は出産の際に脳の視床下部で分泌され、子宮を収縮させて出産を促す物質です。また授乳の際に母乳の分泌を高めます。授乳は子どもへの愛情、信頼がないとできません。つまり授乳の際に子どもをいとおしいと思う気持ちを生ませるのがこの物質の役割なのです。

もともとこの物質はオスとメスが交配する時に、メスの恐怖心を抑え、性行為をさせる物質でした。まったく見知らぬオスはメスにとって恐怖の対象です。しかし、その感情が本能的に抑えられなければ子孫はできません。そのために子孫を残している種では、その恐怖心を抑える仕組みが脳にあるのです。それがオキシトシンの分泌なのです。

この物質の重要性は、山岳地帯などの厳しい環境において同じ種で一夫多妻の生活をする動物と、一夫一婦の生活をする草原に生きる動物のホルモンを調べることで見つかりました。一夫一婦制のオスメスでは、このホルモンが多く、そのようなオスは子どもやメスの生活を保障し、安全を確保しようとするのです。

「正直さ」が「信頼」を生む

ではこの物質がヒトの脳でも信頼を生んでいるということを証明できるでしょうか。経済学者は、医師や動物学者と共同で、この研究を始めています。それは「ゲームの理論」というものです。

まずボランティアを集め、二人ずつペアにします。両者(AさんとBさん)に10万円を与えます。そしてAさんに「そのうちのいくらでもよいから、Bさんにコンピューターで送金しなさい。その金は3倍になって相手に送られます」と言います。もし、5万円送れば、15万円になりますから、Bさんは25万円を獲得します。そしてAさんに「Bさんは感謝していくらかをお返ししてくれるでしょう。もし10万円をあなたに返しても、向こうに15万円は残り、得をしています。あなたも15万円になり、得をします」と言っておきます。またBさんにも説明し、「あなたは送金されたお金のうちのいくらかを相手にお返ししてもよいし、しなくてもよい」と言っておきます。このことは第一の人(Aさん)が相手を信頼しないと出来ません。また送られた方(Bさん)は自分が信頼されていると感じます。

さあ、結果はどうなったのでしょうか。

なんと、すべてのペアの85%の人がいくらかを送金したのです。また送金された人の98%はお返しをしたのです。つまり人は相手を信頼する性質をもっているといえるでしょう。ポイントはお金を送られた人の脳からオキシトシンが多く出ているということです。つまり「信頼されている」という気持ちが、さらに相手を信頼するという気持ちを生むのです。

興味深いのは、このような時に脳はどのように活動しているかということです。MRIなどを使って調べてみると、脳内の快感を引き起こす側座核という部分の活動が高まっています。ここはドーパミンを刺激し、快感を引き起こすのです。つまりオキシトシンは脳内でドーパミンの分泌を引き起こし、それが快感を生むのです。

ドーパミンが多く出て、喜びを感ずるということは相手に信頼されているという気持ちが幸福感を生むということです。そのことは、お金を受け取った人が、損を覚悟でお返しするということの説明にもなります。喜びを感ずることで十分に報われているのです。

ここで重要なことは、信頼を生むのが、本来子孫を増やす行為の際に出される物質=オキシトシンによるということです。つまり、草原でまったく見知らぬ異性に出会った際には本能的に恐怖をもつにもかかわらず、両者が近づき、最終的に性愛の行為に移るためには、恐怖を抑えて信頼を生む仕組みがなくてはなりません。それがオキシトシンなのです。これは、本来子どもを育てる時に子どもに愛着をもち、育児に幸福を感ずるために作られた物質です。これが、その子孫を産む、性愛行動に導くのです。

国民間の相互信頼は経済を活性化させる

最近、人を信じられるかという質問に肯定的に答える人の率でその国の国民間の信頼度を調べるということがなされています。結果を国別に比較すると、もっとも信頼度の高い国はノルウェーで、次がデンマークです。その次が中国、イラン、台湾で、オーストラリア、日本、インド、カナダ、エジプト、アメリカと続きます。意外に韓国は高くないのです。さらに経済学者たちは国民の信頼度の低い社会では経済活動がおもわしくないといっています。つまり、経済の基本は相互信頼にあるというのです。

これと一人当たりのGDPを比べると面白い結果が見られます。2006年には一人当たりGDPの一位がルクセンブルクで、ノルウェー、アイスランド、アイルランド、スイス、デンマーク、アメリカ、スウェーデン、オランダ、フィンランドと続きます。日本は18位(2007年は19位)、韓国は23位です。注目すべきは大きな政府、税金が高い代わりに、社会保障のしっかりしている国、競争が激化していない国の経済がよいということです。

 

 

 

 

高田明和(たかだ・あきかず)

浜松医科大学名誉教授/医学博士
1935年、静岡県清水市生まれ。慶應義塾大学医学部卒業、同大学院修了。ニューヨーク州立大学大学院教授、浜松医科大学教授を経て、現在にいたる。テレビ、ラジオ、全国の講演を通じて、心と身体の健康に関する幅広い啓蒙活動を積極的に行っている。主な著書に『100歳までボケない脳に変わる! 速聴CDブック』(きこ書房)、『長生きしたけりゃ、医者の言いなりになるな』(朝日新聞出版)、『うつもボケも寄せつけない脳と心がホッとする健康学』(すばる舎)ほか多数。

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