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自己啓発

【第3回】 成功とは何か

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photo by Ryan McGuire
2018.8.1
From 高田明和

知能指数と長寿の関係

この話を続ける上で大事なことは成功とは何かということです。たとえば長寿という観点から言うと、ハーバード大学の卒業生を継続的に調査したグラント研究の結果では、彼らは同世代のボストン市民に比べて15歳から20歳ほど長寿です。

いろいろな理由が考えられています。ひとつはこのように知性が高く、社会的地位も高い人は健康に留意し、よい医師の治療を受けることができるからという考え方。もう一つはこのような選ばれた人たちは遺伝的にもよいものをもっていて、それが長生きをもたらすという意見です。

しかし、健康な人のみが長生きとは限りません。病気をもちながら長生きという人もいます。また長寿の人が幸せとも言えないのです。

グラント研究の人たちが75歳のときの調査では、26%が健康で幸福を感じている、と答えました。17%の人は病気で不幸であり、25%が75歳までに亡くなったのです。一方、ボストンの65歳から70歳の一般男性では29%の人が健康で幸福を感じていました。23%の人が65歳までに死亡、14%の人が病気で不幸と感じていました。

この調査をまとめたベイラント教授はボストン市民のサンプルの方が10歳くらい若いと言いますが、それにしても、両者にあまり違いがないのは驚くべきことです。つまり知能指数が135くらいの選ばれた人たちと、知能指数が95くらいで、特別な教育を受けなかった人たちの健康で幸福な人の率と病気で不幸な人の率があまり違わないのです。

幸福をもたらす因子「苦しみに耐える考え方」とは

さて、このような健康で幸福をもたらす因子はなんでしょうか。

グラント研究対象者で75歳から80歳時に「健康で幸福」と回答した人たちの50歳のときの生き方は、ヘビースモーカーではない、アルコールを過飲しない、ある程度の運動をする、安定した結婚生活、などが挙げられますが、もっとも注目すべきは「苦しみに耐える考え方」です。

グラント研究では75歳から80歳で「健康で幸福」と回答した人の67%が50歳時点で「苦しみに耐える考え方」をしていました。しかし、「病気で不幸」と回答した人でこの考え方をしていたのは13%だけだったのです。同じことはボストンの男性市民でも言えます。65歳から70歳で「健康で幸福」だった人の48%が50歳の時に「苦しみに耐える考え方」をもっていたのに、「病気で不幸」な人でこの考え方をもっていたのは4%だけでした。

つまり自分を励まし、苦労を乗り越えるような考え方は晩年の健康で幸せをもたらす必須因子とも言えるのです。

私の場合は自分を励ます言葉「困ったことは起こらない」を使って苦難を乗り越えました。うつだったときや、HSP(Highly Sensitive Person)特有の超敏感な波がおとずれた場合には小さな声で「困ったことは起こらない」「困ったことは起こらない」と、自分に繰り返し言い続けてきたのです。

このような励ましの言葉には不思議な力があり、私の運勢を好転させたと思います。

では、苦しい時にも「正直であれ」と自分を律することが成功、つまり健康で幸福な人生をもたらすのでしょうか。

ここで大切なのはグラント研究でも用いられた、「若い時の考え方が晩年を幸せに、あるいは成功させるかどうか」です。つまり、今、正直であることが、今の自分が成功する要因となりえるのか、という問題ではないのです。

正直な人を励ます老子の言葉

しかし、そのような科学的な研究はあまりなされていないように思えます。

そこで、長い歴史のなかで伝えられている中国古典の言葉やブッダの教えにその根拠を求めるのがよいと考えました。たとえば、老子の書いた書物『老子』です。これは紀元前6世紀の人の思想です。老子は、姓は「李」、名は「耳」、字は「聃」。楚の国の苦県という場所の出身で、孔子(紀元前551年~紀元前479年)が礼の教えを受けるために彼の元に赴いた点から、彼と同時代の人間だったことになります。

「天道に親(しん)なし、恒に善人に与(くみ)す」は老子の代表的な言葉です。つまり天道には依怙ひいきはなく、つねに善人の味方をするというのです。おそらく人々はこのような言葉に励まされて自分を律したと思われるのです。

 

 

 

 

高田明和(たかだ・あきかず)

浜松医科大学名誉教授/医学博士
1935年、静岡県清水市生まれ。慶應義塾大学医学部卒業、同大学院修了。ニューヨーク州立大学大学院教授、浜松医科大学教授を経て、現在にいたる。テレビ、ラジオ、全国の講演を通じて、心と身体の健康に関する幅広い啓蒙活動を積極的に行っている。主な著書に『100歳までボケない脳に変わる! 速聴CDブック』(きこ書房)、『長生きしたけりゃ、医者の言いなりになるな』(朝日新聞出版)、『うつもボケも寄せつけない脳と心がホッとする健康学』(すばる舎)ほか多数。

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