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TALK TO ME -話をしているのか、話しかけているのか-

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photo by igo.rs Secretly listening to their story via photopin (license)

2018.4.13
From マックス桐島

人間力のぶつかり合い

 大手スタジオのピッチミーティングは、スタジオとの製作ディールを持っている者だけでなく、僕のようなインディーズ系プロデューサーが「ペット・プロジェクト」と呼ばれる“自分が製作したい企画”をプレゼンできる格好の機会。

 数人、時には数十人のプロデューサーが待合室で待機して、千載一遇のチャンスを伺います。
 当然、ライバル意識や自己意識のガチンコ勝負が繰り広げられ、周囲と鷹揚に対応する人物と、殻に籠って硬い表情で順番を待つ人物の人間力も垣間見れて、なかなか面白い“場”なのですね。

 自分の力量や企画力、結果を出す自信に満ち溢れた製作者は、どこかゆとりがあり、人の話に耳を傾ける姿にも余裕があります。
 反面、自信の無さやプライドの高さばかりが先行している製作者は、周囲と交わるときに演説調になってしまい、会話の真髄である「話が出会う」というシナジー空間が皆無なのです。

運命のプレゼンテーション

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by rainerstropek@yahoo.com 2015-12-17 Vortrag Hagenberg 3 via photopin (license)


 僕の初めてのピッチミーティング。数作品をプロデュースしてトラッククレコード(業績)が累積され始めた頃、知人のプロデューサーの尽力で20世紀フォックスからお声がかかりました。
 多分一生忘れないその瞬間は、緊張感と好印象を与えようという必死さで、相当つまらないプレゼンであったことでしょう。

 最初の2分間で製作担当重役のハートを鷲掴みにするようなピッチ(売り込み)でないと、業界の有名な拒否台詞である「電話は無用。こちらから電話する」(といっても、その電話はかかってこないのですが)が容赦なく浴びせられます。
 その様をベテラン・プロデューサー仲間から聞いていた僕は、与えられた数分間で可能な限りのビジョンを描こうとまくし立ててしゃべり続けたのでした。
 粗筋や商業性、キャストのウィッシュリスト(希望俳優)などについて熱弁していた僕の耳に、静かな声でこういった紳士がいました。

「Stop talking AT us, talk TO us, Max」

 その言葉にハッとした僕の顔色を見た紳士は、「最初からやりなおしてごらん」と優しい笑顔で語りかけてくれたのです。動揺した僕のプレゼン初陣は散々な結末に終わりましたが、その席で僕はかけがえのない人間力の技を教えてもらったのでした。

話しかける関係

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by videoshatter Just listen to me via photopin (license)

 人に“話をする”だけの「talk at」は、一方通行の話の直流で、感情や思惑が行き交う会話の交流とは程遠い「スピーチ」と化してしまいます。
 その間逆のコンセプトである「talk to」は、人に“話しかける”、つまり、相手の反応を見極めながら会話を進めるという両側通行の「カンバセーション」という相互エネルギーを生み出すのです。

 自分がしたい話題や自慢を吹聴する人は、確かに周囲に対して「話している」つまり「talk at」であり、自分の話題ばかりでなく相手のトピックにも聞き入って対応する人は「話かけ、かけられている」つまり「talk to」を実践しているというわけなのですね。

 あの運命のピッチミーティング以来、僕の話し方は劇的に変わりました。「Talk to手法」の恩恵で様々な人脈を切り開くことが可能になり、家族や部下、友人や仲間とも「話しかける」関係を築きあげることができ、「自分の話題を押しつける」つまらない大人にならずに済んでいます(笑)。

 人間は本能的に、自分に話しているだけの相手と、話しかけてくれている相手を見分けることができます。だからこそ、「Talking to me」のエネルギーは人を魅了し、「Talking at me」のエネルギーは人に嫌悪感を抱かせてしまうのでしょう。

 今思うに、あの日、スタジオ重役は僕に対して「Talk to me」の空間を身をもって示してくれていたのだと思います。

 人生を大きく変えるインサイト(洞察)は、時として苦境の中に潜んでいるのです。

 

 

 

 

マックス桐島

人物紹介写真

ハリウッド映画プロデューサー
神奈川県出身。
ハリウッドで1990年以来、『Night of the Warrior (邦題「ナイト・ウォリアー」)』『Ulterior Motives (邦題「隠された動機」)』『Samurai Cowboy (邦題「ワイルド・ハート/遙かなる荒野へ」)』など13作品をプロデュース。また手掛けた作品は2001年度アカプルコ国際映画祭最優秀作品賞。2002年度ニューヨーク・インディペンデント映画ビデオ映画祭最優秀スリラー作品賞、主演男優賞などを受賞。著書に『NYビジネスマンはみんな日本人のマネをしている』(講談社プラスアルファ新書)など多数。
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