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DEFINING MOMENT -人生の転機(その1)-

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2018.5.15
From マックス桐島

船出

人生や仕事の分岐点となった出来事、自己形成の過程で忘れられない気付きをもたらしてくれたイベント、生涯胸に抱きかかえていくであろう思い出。そんなシーンは誰にでもあるものです。それまでの不運を一気に跳ね返す突破口、苦汁をなめながら思い描いた成功の日々、熱い想いや執念の企画を実際に現実とした武勇伝……。

人生のステージの起承転結の陰には、必ず“Defining Moment(決定的瞬間)”が隠されているのだと思います。

僕にとってのDefining Momentは、数年間の俳優生活を経た後、映画プロデューサーになって間もない頃に、何の前触れもなく突然訪れました。

映画プロデューサーと言っても、幼馴染みの親友マイクと2人でスタジオシティーのガレージに電話2台、机2台を置いて、「今日から、映画プロデューサー!」と自己宣言しただけの、けっこうアバウトで大胆な船出でしたが、自分たちが製作したい映画企画をスタジオ、エージェント、有名監督、スター俳優にプレゼンしては体よく断られる日々が続きました。

そんなある日、ワーナー・ブラザース・スタジオがケーブル大手のHBOと組んで、ウォール街で6000万ドルの複数映画ファンドを組むというニュースを業界紙で読んだのです。

突撃

30代半ばの駆け出しプロデューサーながらも、図々しさと屈辱知らず、つまり日本風に言う「厚顔無恥」の塊であった僕たちは、これこそ我々のために用意された「ハリウッド・チケット」と信じて疑わず、早速ワーナーとHBOへのプレゼンの画策を始めました。

キアヌ・リーブス主演作『ビルとテッドの大冒険』でブレイクした脚本家の友人に、「今までスタジオにパスされた企画の中で、いつか絶対映画にしたい脚本ってある?」と尋ねた僕たちは、『スペースエイド』というSFコメディーの脚本を無料でオプション(映画製作権利を期日限定で譲渡する契約)しました。そして、「これは絶対に映画化したら面白い! してみせる!」というギラギラした情熱と盲目的な自己信仰だけを頼りにプレゼンテーション攻勢をかけたのでした。

ファンドは4作のヒット商品となる映画を物色中で、当然ながら大物プロデューサー、大物スターが参画する企画だけにターゲットを絞っているようでした。

「何とかファンドの決定権者にアプローチできないか?」。

画策の結果、そのファンドを仕切る大手証券会社の担当重役がセント・ジェームス・クラブ(数年前までサンセット・ブルバードにあった男性のみの社交クラブ)で、ある日の早朝にワークアウトをするという情報を入手。

接触

セント・ジェームス・クラブは、高額な入会金と会費を払えるCEOたちの情報交換の場。と同時に、女性の社会進出の陰で衰退の一途をたどる、昔ながらのBoys Club、つまり男社会の名残りをとどめる社交クラブでもありました。

豪華なレストラン、トラックやバスケットボール・コートまで完備したフルサービスのジム、オリンピックサイズのプールと、すべてがファーストクラスの施設に、早朝から高年収の「必殺仕事人」たちが集って身体を鍛えるわけです。

都合のいいことに、クラブの武道クラスを教えていたのが相棒のマイク。ワークアウトを終えた重役がサウナに入ったのを確認した僕たちは、素知らぬ顔をして重役の隣に鎮座し、タオルをまとっただけの姿で汗みどろになること10分。自己紹介からスポーツ談義で会話を切り開き、重役の職種を尋ねました。

トピックが映画ファンド、ワーナー・ブラザースとなったところで、(今思ってもわざとらしいのですが)僕たちの企画も提出されていることを伝えると、なんと、脚本内容を覚えていたその重役は、「結構イケてる企画じゃないか」と、僕たちが泣いて喜ぶような台詞を、大粒の汗をかきながら発したのです。

夢に向かって猪突猛進する勇気と、この企画の映画化を信じて疑わない無垢なまでの図太さだけが僕たちの原動力でした。(続く)

 

 

 

 

マックス桐島

人物紹介写真

ハリウッド映画プロデューサー
神奈川県出身。
ハリウッドで1990年以来、『Night of the Warrior (邦題「ナイト・ウォリアー」)』『Ulterior Motives (邦題「隠された動機」)』『Samurai Cowboy (邦題「ワイルド・ハート/遙かなる荒野へ」)』など13作品をプロデュース。また手掛けた作品は2001年度アカプルコ国際映画祭最優秀作品賞。2002年度ニューヨーク・インディペンデント映画ビデオ映画祭最優秀スリラー作品賞、主演男優賞などを受賞。著書に『NYビジネスマンはみんな日本人のマネをしている』(講談社プラスアルファ新書)など多数。
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