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DEFINING MOMENT -人生の転機(その2)-

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photo by Anaïs Nannini Corentin via photopin (license)
2018.5.22
From マックス桐島

タオル一枚の日本人

(DEFINING MOMENT -人生の転機(その1)-の続き)

提出した企画がイイ線をいっているという情報に気をよくした僕たちは、セントジェームスクラブの高級サウナの熱気に後押しされて、更に図々しいアタックをかけたのです。

「最終選考に残りそうですか?」

しばしの沈黙の後、証券会社重役は「多分大丈夫」と微笑みながら、「でも、実績のない若者にはプロデュースさせないかも……」と呟いたのでした。

ちょっと怯んだ僕たちでしたが、そこは厚顔無恥の本領発揮。
「ここで出会ったのも何かのご縁です。この企画が大ヒットする力添えをお願いできないでしょうか?」と汗まみれの体を近づけました。タオル一枚の日本人に、サウナでにじり寄られる違和感は相当なものだったと思います。その紳士は「考えとくよ」と言葉を濁して立ち上がり、「もしかしたら、本当に幸運の兆候かもしれないね」と言い残してサウナ室を去ってゆきました。

高級カントリークラブのような華麗な装飾が施されたロッカールームで、アルマーニ・スーツに身を包んだ重役は、仕事場にいざ出陣とばかりに身支度を整えていました。

頃合いを見計らって現れた僕たちは、背中を丸めて、「実は、あなたがここで運動するという情報を得て、先回りして待ち伏せして根回しを企んだのです……」と告白しました。

一本の電話

一期一会を素直に信じて優しい言葉をかけてくれた紳士に対して、偽善の芝居を演じ続けることに嫌悪感を抱いた結果の“ドロ吐き”にも、重役はあくまでも紳士でした。

「そうだったのかぁ……。でも逆に考えると、偶然の出逢いよりよっぽどハリウッドっぽい作戦だな!」と僕の肩を軽く叩きました。やはり、デキる人の発想はちがうもんだと、つくづく考えさせられた高級メンズクラブの朝でした。

数日後、ガレージを改装したオフィスの電話が鳴りました。いつもよりどことなく元気なベル音……、気のせいかな?

「こちらHBOですが……」の声に息が止まりそうになりました。
僕たちの企画が最終選考を通り、製作される4作品の一つとして発表される運びとなったという朗報。受話器を置いた手が震えているのや、夢を見ているようなフワフワした思考状態だったのを鮮明に覚えています。きっと、世界新記録を出した陸上選手や水泳選手はこんなユーフォリアを味わうのかもしれません。

決断

その後、1時間○百ドルという業界きっての辣腕エンタメ弁護士と代理契約を結び、大手スタジオとの交渉に臨むことと相成ったのです。

「高額なギャラと交換に、名ばかりのプロデューサー、つまり、黙って引っ込んでろという契約内容だが、まあ最初のビッグディール(大型契約)だからね」と合意を勧める老獪な弁護士の言葉に、僕たちは数日考えてみることにしました。

確かに莫大なギャラは手が出るほど欲しい報酬でしたが、製作の実務に加われないという条件は、「何のため」に映画プロデューサーを志したかを天が試しているとしか思えない試練でした。

数日後、「製作参加が不可能なら、残念だけどパスします。自分たちで製作する方法を模索してみます」と涙声で伝える僕たちに、辣腕弁護士は「それで後悔しないんだね?」と静かに応え、頷きながら説教を予期していた僕たちにこう言ったのです。
「わかった。ひと肌脱いでやるよ!」と。

それから数週間後、弁護士の豪腕のおかげで、『スティング』でアカデミー賞を受賞した名プロデューサー、マイケル・フィリップスの元で「邪魔にならないように師事する」という条件付の契約を結ぶことができたのです。

僕たちの夢の扉がこじ開けられた瞬間でした。

ファンドの重役も、百戦錬磨のエンタメ弁護士も、僕たちの夢への姿勢に何かを感じて動いてくれたにちがいない……。今でもそう思っています。

 

 

 

 

マックス桐島

人物紹介写真

ハリウッド映画プロデューサー
神奈川県出身。
ハリウッドで1990年以来、『Night of the Warrior (邦題「ナイト・ウォリアー」)』『Ulterior Motives (邦題「隠された動機」)』『Samurai Cowboy (邦題「ワイルド・ハート/遙かなる荒野へ」)』など13作品をプロデュース。また手掛けた作品は2001年度アカプルコ国際映画祭最優秀作品賞。2002年度ニューヨーク・インディペンデント映画ビデオ映画祭最優秀スリラー作品賞、主演男優賞などを受賞。著書に『NYビジネスマンはみんな日本人のマネをしている』(講談社プラスアルファ新書)など多数。
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